鋼橋のリダンダンシー解析法の開発

橋梁システムの崩壊を精度よく求める方法(進行性破壊を考慮した解析法)を研究開発しています。

【研究背景】
 2007年、米国ミネアポリスのトラス橋の崩壊事故、同時期に日本でも木曽川大橋および本荘大橋の部材破断事故が発生しました。これらの事故を契機として、鋼トラス橋のリダンダンシーの評価が重要視され、維持管理分野においてリダンダンシーの評価に関する研究が精力的に進められています。その多くの研究は、鋼トラス橋に対して、線形解析結果から衝撃係数による部材破断時の断面力を算出した後、組合せ断面力を受ける部材照査式によるリダンダンシー評価を実施しています。衝撃係数については、URSレポートの衝撃係数を採用しているのがほとんどです。しかし、このようなリダンダンシー評価は、いずれも静的な荷重での解析による評価であり、部材破断時の実現象を必ずしも正確に評価しているとはいい難いと言えます。 今後の維持管理において、一部の部材破壊が橋梁全体の安全性に及ぼす影響を適切に評価することは、鋼トラス橋のような橋梁形式に対して非常に重要であると考えられます。

【研究内容】
 従来からよく用いられているリダンダンシーの評価では、十分に定量的な評価まで行われていないと考え、正確なリダンダンシーの評価のための新たな解析法を提案しています。当社は、橋梁耐震分野において、部材の破壊による部材力の再分配さらに部材の破壊が連鎖的に起きる進行性破壊を考慮した動的解析法について研究を実施してきました。その成果を活用して研究開発を行っています。

【投稿論文】
 野中哲也,宇佐美勉,岩村真樹,廣住敦士,吉野廣一:
 連鎖的な部材破壊を考慮した鋼橋のリダンダンシー解析法の提案,
 土木学会,構造工学論文集,Vol.56A,pp.779-791,2010.3.

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【本論文の概要】
当社が提案してきた進行性破壊を考慮した動的解析法を発展させて、リダンダンシー評価において必要となる鋼橋のモデル化および解析方法を提示した。
上路式鋼トラス橋を例にして、本提案のリダンダンシー解析により、対象橋梁の崩壊シナリオを明確にして、FCM(Fracture Critical Member)を正確に特定した上で、部材破壊後の対象橋梁の崩壊に対する余裕度(リダンダンシー)を定量的に評価できることを示した。なお、本研究でのリダンダンシーとは、橋梁を構成する部材が破壊した後の橋梁全体系の余耐力(終局状態までの余裕度)を意味している。

【例題】
 下図に示すような上路式鋼トラス橋を例にして、一部の部材破断が橋梁全体の安全性に及ぼす影響を適切に評価する方法を簡単に示します。まず、常時荷重(死荷重+活荷重)載荷解析を実施し、その結果を基にして橋梁全体の崩壊に対して影響を与える可能性がある部材(「FCM候補部材」と呼ぶ)を抽出します(下図の部材A~C)。例えば、各部材のひずみエネルギー値を計算し、その値が大きい部材をFCM候補部材とする考え方があります。次に、そのFCM候補部材について、本研究成果のリダンダンシー解析法の活用により、正確にFCM部材を特定し部材破断後の対象橋梁の崩壊に対するリダンダンシーを定量的に算定します。例えば、下表において、余裕度とはFCM候補部材が破壊した後の余裕度を意味し、荷重(死荷重+活荷重)のα倍で崩壊したときのαの値であり、このαの値がもっとも小さい部材がFCMと決定されます。この例では、αの値が最も小さい1.4の部材BがFCMと決定され、そのα値が対象橋梁のリダンダンシーとなります

FCM候補部材 余裕度α α減少率 判定
部材A(斜材) 1.8 69%
部材B(垂直材) 1.4 54% FCMと決定
部材C(下弦材) 1.7 65%

 

【実務への適用】
 港大橋の維持管理合理化のための調査研究における解析業務が、(財)阪神高速道路管理技術センターから発注になりました。この業務の中には、リダンダンシー解析等が含まれております。当社が提案しているリダンダンシー解析法の研究成果が高く評価され、平成22年9月に本業務を受注することができました。